約15年前、中学生のときの話しになります。
私は、野球部に所属しておりましたが、夏休みの炎天下の中での練習は思い出すだけで辛いものでした。朝から夕方まで丸一日続く練習の中、水分が飲めるのは昼ご飯の時だけです。気分が悪くなった仲間を何人おんぶして日陰まで運んだことか。練習中に行う校内の清掃中、決してきれいとは言えないホースから出てくる水を先輩に隠れてこっそり飲んで耐えたものです。当時は「根性論」の時代でそれが当たり前でした。
しかし、水分を摂らないことでパフォーマンスは低下し、体調不良の原因にもなります。行き過ぎれば命の危険性もあります。徐々に世の中の考え方が変わりつつあります。
でも、どのようにしたらよいのかわからず、根性だけで走っていませんか?
そこで、今日は、根性だけに頼らず、「科学」と「物理」を考慮して走るポイントについてお伝えしようと思います。
科学的要素
まず、「科学」についてですが、以下の3つのことを意識してみましょう。
血糖値
ランニング中は血液中の糖を使用してエネルギーを作り出しています。この糖が使われていくと低血糖状態になります。低血糖になると、空腹感、だるさ、頭痛、吐き気、けいれんなどの症状が起きます。マラソン大会で給食があるのは、糖を補給し低血糖にならないようにする必要があるからなのです。
普段の練習においては、10kmくらいの練習であれば、ランニング中に糖を補給する必要はないと思います。しかし、食事をしてから5時間以上時間が経っている場合は血液中の糖がかなり減っている状態ですので、そのままランニングをすると低血糖になる可能性があります。その為、糖分を摂取してから練習をする必要があります。
ただ、ここで注意しなければいけないポイントは、チョコレートやクッキーなど「砂糖」が入っているものを食べないことです。砂糖は「単糖類」という種類の糖になります。単糖類は吸収率が良いので、血糖値が一気に上昇します。一気に上昇すると血糖値を下げようとインスリンが分泌されるのですが、その結果、血糖値が下がってしまうのです。何事も急激なことはよくないということです。
ベストなのは、走る2時間前に食事を終わらせておくことです。しかし、仕事で忙しい合間を縫って走っているビジネスパーソンには、なかなか難しいですよね。そこでオススメな食べ物が、「バナナ」です。単糖類は更に「ショ糖」と「果糖」に分類されます。バナナは果糖になります。果糖はインスリンショックを起こしにくいのです。
どうしてもという時は、バナナを食べて走りましょう。しかし、食べた直前は消化する為に胃に血液が必要になりますので、走る30分前くらいに食べるようにしましょう。
浸透圧
人間の60%~70%は水分でできています。運動することで体内の熱が上昇し、それを抑えるために発汗します。水分が2%失われただけでパフォーマンスが落ち、3%~5%失われると頭痛やめまい、立ちくらみといった症状が現れます。水分補給はとても大切な要素です。しかし、運動前と運動中・運動後で水分の濃度を考えて摂らなければ、補給していても実際には吸収されていないということがあります。それは、「浸透圧」が関係しているからです。
浸透圧とは、塩分やミネラルの濃度が異なる液体が細胞膜を境にして隔てられている場合、濃度が薄いほうから濃いほうへ水分が移動して同じ濃度にしようとする働きのことです。きゅうりに塩をかけると水分が出てくることをイメージしていただくとわかりやすいかと思います。
運動前は体内の水分濃度は高いので、真水を摂取すると水分は補給されますが、体内の水分濃度が薄まってしまいます。濃度を薄めることなく水分補給をするために、スポーツドリンクを摂取します。
逆に、運動中・運動後は体内の水分濃度は低いので、スポーツドリンクを飲んでも体内に取り込まれにくい状態です。その為、飲んでいるはずなのに脱水症状になってしまうのです。マラソン大会に出場されたことがある方はお気づきかと思いますが、給水所にあるスポーツドリンクはとても薄味だと思います。なぜなら、浸透圧を考慮し水で薄めてあるためです。
普段の練習の際には、運動前はスポーツドリンクを摂取し、運動中・運動後はそのスポーツドリンクを薄めて摂取することをおススメします。
心拍数
短距離をダッシュしたり、登り坂を走ったりすると心拍数が極端にあがります。心拍数が高くなるトレーニングは強度が高いため、一時的には結果が出る可能性があります。しかし、強度が高いということは、ケガのリスクが高まり、カラダへの負担もかかり、疲労がなかなか抜けず、やる気が起きずにやめてしまうのです。続かないトレーニングを実施しても意味がないですよね。
ランニングで必要なことは持久力をつけることです。その為に必要なことは、酸素を取り込みやすいカラダにすることです。心拍数の60%~85%で走ると新たに毛細血管を作り出します。個人差はありますが、140~165くらいです。毛細血管が増えることで、酸素を取り込み、脂肪を燃焼させるミトコンドリアが増えるので、結果として持久力をつけることにつながります。
ランニング初心者で心拍数が計れる時計をお持ちでない方は、ゼイゼイするほど息が上がらず、話ができるペースが目安になります。こんなに遅いのと思われるかもしれませんが、持久力をつけるためにはこのくらいのペースが最適なのです。
物理的要素
続いて「物理」についてですが、以下の2つのことを意識してみましょう。
作用、反作用
壁を手で押したときに、押したほうと反対方向にカラダが移動すると思います。これが作業、反作用です。これをランニングでも意識することで、足への負担を減らして走る事ができるようになります。では、どのようにしたらよいでしょう?一つ例を挙げてみようと思います。
「腿上げ」をされたことがあると思いますが、なんのために腿を上げているのかわかりますか?
それは、強く地面を蹴るためです。それを教えてもらわずに実施しているため、腿を上げることが目的となってしまい、姿勢は後傾になり意味のない練習を行っている方が多く見受けられます。冒頭に書きました、壁を手で押したときの動きを足で行うのです。地面を蹴る「作用」により、「反作用」が発生します。その時に、前傾姿勢が取れていると反作用の力で前に進むことができます。
これを理解すると、大腿四頭筋やふくらはぎを使わずに走る事ができるようになり、30kmの壁を乗り越えることができます。
重力
物が落ちるのは重力が働いているからですよね。その力をランニングに使います。姿勢を正した状態でカラダを前に倒して前傾姿勢を取ります。そうすることで前に倒れていき、一歩足が出ると思います。その状態からさらに前傾姿勢を続けるとまた足が出る。この繰り返しをすることで、足で蹴ることなく前に進むことができます。足の筋肉を使わずに進むことができれば足に負担をかけずに長く走る事ができると思いませんか?
まとめ
カラダの仕組みは奥が深く、まだまだたくさんの要素がありますが、今回は、5つのポイントについてお伝えしました。
「根性」だけで、頑張り続けることは、非効率的で長く続けられません。「科学」と「物理」を考慮すると効率的で無理なく続けることができるのです。ただなんとなく走られている方は、一度、「科学」と「物理」を考慮して走ってみてはいかがでしょうか?
仕事においても、納期が迫っていて残業せざるを得ない状況があると思います。そういう時間がない時だからこそ、一度手を止めて効率的な方法を考えてみてはいかがでしょう。初めから根性論だけで乗り切るスタイルでは、途中で挫折してしまいます。空いた時間は少しでもランニングをする時間に充てて、リフレッシュして仕事に臨むことがより効率的に仕事をこなすことにつながると思います。
「根性」は最後の最後まで取っておきましょう。